競技かるた小説『ちはやふる中学生編』第1巻感想
競技かるたマンガ『ちはやふる
(作:末次由紀
)』がノベライズ化され、『小説 ちはやふる 中学生編(著:時海結以
)』として発売されました。
このブログでは、雑誌、コミックス、アニメ、百人一首解説本と、ちはやふるに関するものはほとんど感想記事として書いてきたので、この小説版についても感想記事を書いてみたいと思います。
小説には書かれていないコミックスの話題に言及しますのであらかじめご了承ください。では、ネタバレありで書いていきます。
マンガのノベライズ化
すみません、感想記事に入る前に本編とは直接関係のない話を書きます。最近はマンガを読む量がかなり減っているのですが、僕は学生時代に結構マンガを読んでいました。そして、好きなマンガだとノベライズ化されたものも購入して読んでいました。
少女マンガであれば(講談社じゃなくて集英社になりますが)、『ときめきトゥナイト』『姫ちゃんのリボン』などの作品を、コミックスより一回り小さいコバルト文庫を購入していました。少年マンガだと一回り大きい『JUMP j BOOKS』を購入していました。
しかし、最近ノベライズ化されているものは、コミックスと同じような装丁・サイズで出版されているものが増えているようですね。この『小説ちはやふる』も正しくそうで、何も知らない人が「マンガのちはやふる1巻を買ってみよう」と書店に行って平積みの本の表紙を見ただけだと、間違ってこの小説版を買ってしまいそうな気がします(笑)
作品
背表紙に書かれている作品紹介を抜粋。
「かるたを続けてたら、また絶対会える」
離ればなれになる新と交わした約束を胸に、
中学に入学した千早と太一。
千早はかるた仲間を探そうとするが、空回りばかり。
太一は秀才が数多く集まる開明成中学で自分の限界を知り、
かるたへの情熱を失っていく、
千早と太一の距離は少しずつひろがっていき……。漫画では読めなかった中学時代を描く、
まぶしすぎる青春かるた小説、誕生!!
目次
序章 春過ぎて
太一の章 世の中よ道こそなけれ
一 嵐吹く
二 人も惜し
三 おのれのみ千早の章 わが身一つの秋には
一 乙女の姿
二 君がため
三 今はただ終章 降れる白雪
サブタイトルは全て百人一首に関する言葉ですね。そこで、対応する百人一首とその取札を書いておきます(『君がため』は2首あるため両方書きます)。
春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山 (持統天皇)
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる (皇太后宮大夫俊成)
嵐吹く 三室の山の 紅葉葉は 竜田の川の にしきなりけり (能因法師)
人も惜し 人もうらめし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は (後鳥羽院)
風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな (源重之)
月見れば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど (大江千里)
君がため 春の野にいでて 若菜摘む わが衣手に 雪は降りつつ (光孝天皇)
君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな (藤原義孝)
今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな (左京大夫道雅)
朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪 (坂上是則)

序章 春過ぎて
序章は千早目線で話が進んでいきます。中学に入学してからの2カ月間が書かれています。マンガで描かれた数少ない中学時代のシーンを膨らませて書かれたような感じですね。
太一の章
太一の章は、開明成中学へと進学した太一目線で話が進んでいきます。太一のサッカー部での話や、友人とのやりとりが主題となっていましたが、授業で和歌としての百人一首の話を組み込んでいるのが上手いなと思いました。
そのあたりの内容については各自読んでもらうとして、このブログではいつものごとく、競技面に関するところを書いていきます。
P41 大山札
41ページで『あさぼらけ う――』と表記されているシーンがありますが、大山札のときには5文字目で切らずに続けて読むように決められているので、このように空白があると違和感がありますね。それ以降も、大山札で5文字目で空白があるシーンがあるのですが、競技者の立場からするとくっつけて書いて欲しい感じがします。
P67 「かぜを」「かぜそ」
千早の陣で左右に分けられてた「かぜを」「かぜそ」を聞き分けて取っているシーンがありますが、このような状況では3文字目を聞き分ける必要性は少ないです。「同じ陣であれば触ってもお手つきにならない」というルールがあるので、「かぜ」と2文字目が読まれた時点でどちらか好きな方を触ってしまえば良いです。逆が読まれれば仕方がありませんが、余裕があれば左右両方の札を払い飛ばす「渡り手」で払い飛ばすことが出来る状況でした。
P99 準々決勝で千早vs太一
競技かるたの大会では同会同士が出来るだけ当たらないように組み合わせられていくため、準々決勝戦で千早と太一が対戦しているということは、この時点で府中白波会の選手が5人以上残っているということですね。
P100 大山札だらけ
試合で使用する札は100枚中50枚なので、大山札の6枚が全て使用される確率は約1.3%(75試合に1回)です。更に、残り12枚までそれらの札が全て読まれないとなると……相当確率は低いです。終盤は決まり字が変化して、早く取れる札ばかりになるのが普通なので、このように大山札ばかりになってしまうとやりづらいと思います(汗)
P100 札を積み重ねる千早
「わたのはらや」の札を取った千早。そのときのシーンがこのように描写されています。
<あまのつりぶね>と下の句を聞きながら、ほっとしたように千早は札を自分の後方に積み重ねた。
「あまのつりぶね」は下の句の一番最後の句なので、この句が聞こえているときには選手たちは構えて次の歌に集中しているはずです。このときはもちろん音を立ててはいけないので、ほっとしながら札を重ねるのはちょっと違和感がありますね。
千早の章
千早の章は、中学でかるた仲間を広めようとする様子や、陸上部に入るきっかけとなったエピソードなどが書かれていました。意図的にそうしているのだと思いますが、千早がかるたの説明をしているシーンなどは、色んな事を伝えたいけど上手く説明できず、結局は分かりづらくなってしまっているのが微笑ましかったです(笑)
千早の章でも試合のシーンはあるのですが、お座敷かるたに近いような感じなので詳しく書くのは止めておきます。
小説から明らかになったこと
小説のストーリーを正史として解釈して良いのかどうか分かりませんが、仮に小説の通りに2人がかるたをやっていたとすると、今まで見えてなかったところが見えてきます。大会の結果を箇条書すると、
- 千早、春休みの初心者大会(3月?)でE級3回戦敗退(P12)
- 太一、春休みの初心者大会(3月?)でE級優勝してD級に(P12)
- 千早、埼玉県の大会(5月?)でD級準々決勝敗退
- 太一、埼玉県の大会(5月?)でD級優勝してC級に(P69)
- 千早、6月初めの大会でD級優勝してC級に(P94)
- 千早、9月の大会でC級準々決勝敗退(P105)
- 太一、9月の大会でC級優勝してB級に(P106)
となります。千早と太一が小学6年の1月にかるたを始めたことを考えると、2人ともハイペースで昇級しています。特に太一は練習があまり出来ないはずの環境だったはずなのに、8カ月ほどでB級になったということになります。マンガでは「才能がない」という描写のある太一ですが、少ない練習量で短期間でB級になったのは才能がある証拠だと思うんだけどなぁ……あと、小説版だと結構運が良いように感じてしまいます(笑)
また、千早も太一と同じように順調に成長しているかと思いきや、高校入学直前に行われた春休みの大会までずっとC級だったということは、全然大会に出ていなかったのか実力を発揮出来ずにいたのか、どちらなんでしょうかね。
感想まとめ
競技シーンや百人一首の文学的な解説シーンなど、全く知識がなかったら読みづらそうな文章が少し多いかなという印象でした。僕はどちらもある程度理解できているのでスラスラ読めたのですが、若年層には少し読みづらいものになっているかもと感じました。
もし、この小説で書かれている百人一首の文学的話題についていけなかった方は、『ちはやと覚える百人一首』という本を読めば、より楽しく読めるのではないかと思うのでぜひお買い求めください(笑)
小説版ちはやふるの2巻は、12月13日の発売。福井のキャラクターたちがどのように書かれるのか今から楽しみです。
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5 Comments
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今度中学校でかるた大会みたいなのします!
ちはやふるを参考にさせていただいていますが・・・勉強になります。
ちはやふる・・・・・!!
最高だ!!!
ちはやふるはまるとヤバいです!!!今友達にちはやふる紹介中デス♡
こんにちは。小説の『ちはやふる』は色々予想していたのですがいい出来だったと思います。ただ私はサッカーファンなので太一のサッカーがらみの描写には色々と疑問が残りました。参考文献にサッカー関連本があるので筆者は勉強はしているのでしょうが、東京都サッカー協会に監修してもらえば、もっと描写はよくなったのに、と惜しくなります。監修代を求められるのかは分かりませんが、売り上げが期待される作品なので監修費くらいどうにでもなると思いますし。
マンガでは千早と太一は中卒時B級、しかも千早は入学前の春休みにB級に上がったので、太一のほうがランクが上なのは想像つきましたが、中1でB級に上がっていたのですね。それなら4年間B級で、「万年B級」と思い込むのも分かる気がします。飲み込みは早かったのでしょうから。
開明成中学は総理大臣を何人も出しているということから、高校が東大合格者数№1のそのまま現実の開成中がモデルかと思っていましたが、進学コースと体育コースに分かれているのですね。太一の志望動機のひとつが文武両道ということなので、そのあたり調べていないと言うのは不思議な気がします。進学塾でも何度も面談あったでしょうし。進学校のテストでほぼ満点が何人もいるというのは考えにくいです。公立校も受ける業者のテストなら分かりますが。しかも一握りの上位に入りながら、それで挫折を感じて、満点を目指す太一はどれだけ凄いのかと……。後に「片道1時間半通っていられない」と言う理由で進んだ瑞沢も電車通学が必要な程度には離れていて、それで地区のトップ校の次くらいと言うのは妙だと思いました。進むなら近くの都立トップ校じゃないですかね。
サッカー描写ですが、良く調べて書かれているので、現実に照らし合わせてみると、太一母によればJ2のジュニアユース(中学生チーム)に入れるかと思ったけど、勉強との両立は無理ね、とのことですが、例えば全国でもトップクラスのコンサドーレ札幌ユース(高校生チーム)のキーパーが今春東大に現役合格しています。またJFL(アマチュア最強全国リーグ)の横河電機のユースチームも今春東大現役合格者を出しています。東大生Jリーガーもいましたし、大学生Jリーガーは何人もいます。前述の東大生Jリーガーはそのまま東大卒Jリーガーになっています。つまり練習時間の短いサッカーでは文武両道が可能です。作中には大学病院の医師を勤めながら日本代表の選手なんていない、と書かれていますが、医師の資格を持ち、サッカー選手や監督として世界最高レベルの人もいます。86年メキシコワールドカップでアルゼンチンを優勝させた名将ビラルド監督や82年に魅力的なチームを作ったブラジル代表の中心選手ソクラテスは医師の資格を持っています。
さて太一の評価ですが、母親の贔屓目でなければ、サッカー選手には評価の序列がきっちりあります。トレーニングセンター(トレセン)と言う仕組みがあって、優れた選手を小学生段階から地区選抜・都選抜・関東選抜、ナショナルトレセンへ吸い上げ、中学生以上だと年代別日本代表チームに吸い上げられる仕組みになっています。J2ジュニアユース入りが可能と言うことは、太一はトレセンに選ばれるか少なくとも推薦され勉強のために断っていた事が考えられます。教育熱心な太一の母親はそれくらい把握しているでしょう。
太一の住む府中市から無理なく通えるJ2は隣町のヴェルディということになりますが、ここはとてつもなくレベルが高いです。どのくらい強いのかと言うと、プロを大量に輩出し、社会人も大学も参加できる天皇杯予選において、昨年激戦区東京予選で大学チームと横河電機のチームを破って全国大会に出たくらいです。ちなみに日本は大学生のオリンピック、ユニバーシアードで何度か優勝しているくらい大学サッカーのレベルが高く、(よくある誤解ですが、ほとんどの国でプロがあるため大学生のレベルが低いと言うわけではありません。大学生においてもサッカーは競技人口ではほかのスポーツを圧倒しています)、その中でも東京の大学はトップクラスだし、横河に至っては社会人最強クラスです。今年の天皇杯ではFC東京を破っています。作中のヴェルディはそこまで強くないのかもしれませんが、超進学校でトップクラスで(東大には余裕で入れるでしょうね)、サッカーでもトップクラスだと完璧超人過ぎるかと思います(笑)。現実のヴェルディクラスだとしたら、そんな選手が体育コースとはいえJ2クラブよりはるかにレベルの落ちる中学サッカー部のセレクションに落ちるのはケガのためとはいえ不思議というより明らかにおかしいです。むしろ体育コースのある中学ならトレセンの選手には声を掛けまくっているでしょう。
また進学コースのサッカー部の試合に1年生でFWでレギュラーというのも妙です。1学年30人もいるサッカー部で、早熟でもなく体格に特に恵まれていない太一は3年生とは20cm以上、10数kg以上の体格差が考えられます。コンタクトプレー(接触プレー)の強さやヘディングの強さが求められるサッカーのFWでは致命的で、コテンパンに潰されまくったでしょう。
また野球用語で2軍という言葉はサッカー界では世界基準に合わせてBチームとかセカンドチームと呼ばれます。もちろん未だに2軍と3軍とかいう言葉を使うチームもあるでしょうが、作中で試合中の指示に英語を使うチームにおいて、Cチームのことを3軍と表現するのは妙です。高体連(高校体育連盟)や中体連(中学体育連盟)では1校1チームしか公式戦にエントリーできませんが、サッカー協会主催の公式大会であるリーグ戦では1校から複数チームのエントリーが可能です。そのときのチーム名で「2軍」「3軍」なんて聞いたことがありません。ちなみに近年全国制覇経験のある青森山田はAチームが10チーム×2ブロックのホーム&アウェイで年間18試合戦う全国リーグ「プレミアリーグ」に所属し(クラブの方が強いので高体連としては所属すること自体驚異的)、セカンドチーム(青森山田セカンドの名で登録)が来年から8チームホーム&アウェイ年間14試合の東北リーグ1部「プリンスリーグ」に昇格してきます。山形と福島以外全国制覇経験のある東北において、全国を狙えるほとんどの高校の「1軍」よりも、青森山田の「2軍」の方が強いことになります。
以上長々とサッカー描写について書きましたが、リアルに書く意識があるからゆえの引っ掛かりですね。HaRDさんのかるた描写への引っ掛かりがなんとなく分かります。私も荒唐無稽なサッカーマンガとかなら突っこまないのですが(笑)。競技かるたメインのブログで『ちはやふる』題材のところでサッカー話を延々と語るのも何だとは思いますが、自分の気持ちを整理するために書きました。どうもすみません。
失礼、ヴェルディが天皇杯に出たのはユース(高校生)チームです。いくらなんでも
中学生チームが大学生や社会人を破るのは不可能です。
コメントありがとうございます。
サッカーについては全くといって良いほど知識がないので、
興味深く拝見させていただきました。
僕の感想記事よりも文章が充実しているように感じます(汗)
フィクション作品における矛盾や誇張表現等は仕方がないと分かっていても、
作品自体が良いものだと余計に気になってしまうものですよね(笑)