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僕と大山札 その4
これまで、大山札に関する思い出話を語ってきましたが、大山札をたくさん練習したからといって、それが自分の実力向上にすぐに結びつく可能性は低いと思います。かるたの実力を伸ばしていく段階では、大山札のように長い札を練習するよりも、1~3字決まりくらいの札をたくさん練習した方が良いです。
大山札をはじめとする決まり字の長い札(4~6字札)を、元の決まり字の長さ(決まり字変化前の状態)で取ることができる枚数は、一試合でどれくらいあるのかという期待値を求めると、
- 6字札 …… 1.5回
- 5字札 …… 0.5回
- 4字札 …… 1.5回
これは、その試合で場にある50枚の札が全て読まれ、友札を同じ陣に置いて決まり字を短くするようなことをしない、という前提での計算結果です。この結果より、実際に4文字以上の決まり字のタイミングで取る必要がある枚数の期待値は、これらの値を合計して、一試合あたり約3.5回となります。そして、3文字以下の決まり字のタイミングで取る必要がある枚数の期待値は、一試合あたり約46.5回となります。
このように分けて考えると、3文字以下の決まり字のタイミングで取る事の方が圧倒的に多いです。だから、まだ自分が成長段階にあり、試合に勝てる選手を目指している場合は、長い札の練習はとりあえずおいといて、短い札の練習をすると良いと思います。
しかし、「全ての札を取りたい」「苦手な札をつくりたくない」「かるたを楽しみたい」という思いが強いのであれば、大山札をはじめとする長い札もたくさん練習してみましょう。僕のように、『大山札』というテーマだけで思い出話が語れるようになるかもしれませんから……
<おわり>
僕と大山札 その3
大学のサークル練習日のことだった。その日は休日練習であり、珍しく県外からA級選手も参加されていて、僕はさっそくその方と対戦することになった。
そのときの大山札の場所は、僕の上段中央に『あさぼらけ』と『わたのはら』が単独で2枚ある状態だった。試合が始まると、序盤でさっそく『あさぼらけ』の出札が読まれ、僕は札を囲って決まり字と同時に指先で手前に払って札を取った。
すると、対戦相手の方は、「なるほど……そうきますか……」と感想を述べて何かを考えているようだった。おそらく、この僕の取り方に対して『わたのはら』をどのようにして取ろうかと考えているに違いない。相手がどのように対処してくるかを楽しみにしながら、『わたのはら』が読まれるのを待った。
そして、そのときが来た。『わた……』と読まれたときに、さっきと同じように札を囲いにかかったのだが……相手の手が僕を襲ってきた!囲おうとしていた僕の手は相手の手に押されて力強く押し戻され、最初に構えていた手の位置まで戻されてしまった。
手を押し戻されることを予想していなかった僕は、全く対処できずに、決まり字が読まれた後に相手にゆっくりとで札を取られてしまった。あっけに取られていると、僕が何も言い出さないうちに、「囲っている手をどかしてはいけないというルールはありませんから」と言いながら、笑顔で札を送ってきた。うーん……まさか、こういう技で大山札を取られるとは(汗)
試合が終わった後は大山札の話になり、相手に札を囲われたときの対処法を聞くことが出来た。そして、その方は囲った手を真上に持ち上げる技……名付けて『ショベルカー』という必殺技を持っていることを教えてもらい、この日から僕はこの技を習得しようと練習に励んだ。
しかし、この技を習得するのは思ったよりも難しかった。普段札を払うときと違って手のひらを上に向ける必要があるし、相手が必ず札を囲ってくるとは限らない。だから、普段は自分から大山札を囲いに行き、相手が札を囲ったときに臨機応変に対処することが必要だった。初めのうちは、相手が囲ってもいないのに、相手の囲った手を持ち上げようと待ち構えてしまうことも多かったのだが、変にこの技に対する意識に重きをおかず、技の動きのイメージだけを心の片隅に置いておくようにした。
数ヵ月後……いつの間にか技が完成していた。見せてもらった必殺技『ショベルカー』とは動きは違うが、相手が札を囲ったときにその手を払うようにして持ち上げる臨機応変さが身についていた。そして、この技を僕は『囲い手崩し』と呼ぶようにし、それからは全く意識せずにこの技が使えるようになっていた。この技の利点はというと、
- 相手が囲ったときにだけ発動し、囲わないときには自分の理想の形で札を取りにいける
- 成功したときは、相手に与える精神的ダメージが高い
- 相手が焦ってお手つきをしやすくなる
- なんか楽しい
こうして、僕の大山札に対する技や意識の基盤が築かれたのであった。ちなみに、このときはまだ僕は初段くらいだったと思います。
<つづく>
僕と大山札 その2
僕が大山札の定位置を全て上段中央にするようになって、色々とこの配置の利点が見えてきた。
- 別れ札のときに、相手陣を攻めてから戻りやすい(その分相手も攻めやすいけど……)
- 別れ札のときに、自陣を囲ってから相手陣を攻めやすい(相手に先に囲われるリスクも高いけど……)
- 相手が必要以上に大山札を意識してしまうことがある
- 僕はもともと苦手な札なので、あっさり取られてもダメージが低い
- 自陣の札の多さやバランスに拘らず、置く場所が変化しない
確かに、どれも絶対的な利点ではないのだが、今まで全然大山札が取れていなかった僕から見れば、相対的にかなりの利点であった。
その後、僕は高校を卒業して大学になってかるたを続けたのだが、ある日のかるた合宿で試合が終わった後に、対戦相手の方に「大山札は全部上段の真ん中に置いてるの?」と聞かれた。「そうですけど……」と答えると、「『きみがため』は、他の大山札と性質が違うから場所を変えたほうが良いんじゃないかな」と提案された。
その意味が瞬時には理解できなかったので、どういうことなのかとたずねると、『あさぼらけ』は16枚ある『あ札』の中の2枚、『わたのはら』は7枚ある『わ札』の中の2枚であり、一音目が読まれた瞬間に大山札へと反応することは少ない。しかし、『きみがため』は3枚ある『き札』の中の2枚であるため、一音目で反応されやすい上に、一音目で取る事も多い。
言われて見れば最もな話であり、おそらく試合を重ねていくうちに感覚的には理解していたことなのだが、僕はそれを意識的には理解しておらず、大山札はどれも同じような意識でとらえていたように思える。
普段は、どんなに強い人から受けたアドバイスであっても、自分が納得しなければ全く実践しようとは思わないのだが、このときはすぐにそのアドバイスを実践することにした。そして、『きみがため』の新しい定位置は右中段の一番外側。理由は、『きり』の札がその場所であったために『き札』があっても違和感がなかったということと、一番端に置くことにより札の場所を変動させないようにしたい、ということがあった。
そして、『きみがため』の囲い方は、今まで前方に手を出して囲っていたのを、右側に手を出して囲うように変化させただけ。ただ、普通に囲うと札の上側から入られやすくなってしまうので、札の上側が見えないように囲う。そして、このように端の札に対して、指先を触れるようにして囲うやり方には利点があり、相手が出札に触らずに札押しで払ってくるような場合に、競技線から出札が完全に出てしまう前に、囲っている手に出札が触れるので、相手の取りにならずに自分の取りになる……ということも、この合宿のときに学んだ。
このようにして、僕の大山札の定位置は『上段中央』と『右中段端』へと決まったのであった。しかし、まだ話はこれで終わりではなく、僕が大山札を語る上で忘れることの出来ない試合があるんですよね……
<つづく>
僕と大山札 その1
以前、このブログで自分の定位置をさらけ出してしまった(2007-10-04 僕の自陣の配置を教えます)ので、今更隠す必要なんてないわけだが、僕の大山札の定位置は『上段中央』と『右中段端』だ。では、どうしてこのような定位置になったのかという思い出話でもしてみようかと思います。
僕は、もともと大山札が一番嫌いだった。かるたを始めたばかりの初心者で、大山札が得意だという人はまれだと思うのだが、相手陣の大山札が出たら相手が取るのを見つめるだけで、自陣が読まれても囲えずに取られるか、囲えたとしてもあっさり下に入られ取られていた。ちなみに、僕がかるたを始めたばかりのときの大山札の定位置は、右下段の内側あたりに『あさぼらけ』『きみがため』、左下段の内側あたりに『わたのはら』を置くようになっていた。これは自分で決めた配置ではなく、当時既にA級選手だった同級生に僕の配置をつくってもらってこのようになっただけであり、大山札の配置を変えるべきかな……と思いつつも、手つかずの状態だった。
そんな高校2年の冬のある日、3年の先輩が部室に来て、帰る方向が一緒だった僕は部活後に自転車で一緒に帰ることになった。そして、「帰りにうちに寄ってみらんね?かるたの技ば教えてやるよ」と言われ、お家にお邪魔して畳のある部屋へあがらせてもらった。
そこは、こざっぱりとした部屋で、もしかして先輩はこの部屋でかるたの練習をしていたのだろうか……と思っていると、札を並べていた先輩が、「何が一番苦手ね?」と聞いてきた。僕が「大山札が苦手なんですよね……」と即答すると、「じゃあ、上段の真ん中に置きなっせ」とこちらも即答(笑)どうやら、先輩の大山札の定位置が『上段中央』であったらしく、その場所に大山札を置くことを薦められた。
そして、先輩に読みをしてもらいながら、上段中央に置いて大山札を囲って取る練習をやってみた。囲い方は単純に、人差し指・中指・薬指あたりを畳に触れるようにしながら手で覆うという方法。ただ、取るときにはそのまま上から押さえつけるのではなく、指先で手前に弾くようにする方が良いとのことだった。他にも、相手陣を攻めながら相手の手にわざとぶつかって決まり字前に大山札に触れる技や、相手も上段中央に大山札を置いたときの対処法、相手に囲われたときの入り方などを教えてもらった。
この時から、僕の大山札に対する苦手意識がなくなり、むしろ「この技を試してみたい」という気持ちから、好きな札になってしまった。今思えば、『札を暗記して反応した札を思いっきり払い飛ばすだけ』というスタイルだった僕に、『考えて取る』というエッセンスを加えてくれたのは、この先輩だったのかもしれない。この日から、僕の上段中央には『きみがため』『あさぼらけ』『わたのはら』の大山札が置かれることになった。
<つづく>